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東京地方裁判所 昭和40年(手ワ)3389号 判決 1966年12月27日

原告 有限会社共進木工所

右訴訟代理人弁護士 渡辺敏郎

被告 岡村質

右訴訟代理人弁護士 高橋銀治

同 高野長英

主文

被告は、原告に対し金六二六、一四〇円および内金二五〇、〇〇〇円に対する昭和四〇年一〇月一日から、内金二五〇、〇〇〇円に対する同年一二月一日から、内金五〇、〇〇〇円に対する昭和四一年一月一日から、内金七六、一四〇円に対する同年二月一日から各支払済みにいたるまで年六分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告の負担とする。

この判決は仮に執行することができる。

事実

原告訴訟代理人は、主文第一、二項同趣旨の判決ならびに仮執行の宣言を求め、請求の原因として、

一、原告は左記為替手形四通を所持している。

(一)  金額 金二五〇、〇〇〇円、満期

昭和四〇年九月三〇日、支払地 東京都北区、支払場所 株式会社三菱銀行赤羽支店、振出地 東京都足立区、振出日 昭和四〇年六月三〇日、振出人 有限会社共進木工所、受取人 同、支払人 株式会社ベスト家具センター、取締役社長 岡村質、引受人 同

(二)  金額 金二五〇、〇〇〇円、満期

昭和四〇年一一月三〇日、振出日 昭和四〇年六月三〇日、その他の記載事項(一)の手形と同じ、

(三)金額 金五〇〇、〇〇〇円、満期

昭和四〇年一二月三一日、振出日 昭和四〇年七月一日、その他の記載事項(一)の手形と同じ、

(四)  金額 金七六、一四〇円、満期

昭和四一年一月三一日、振出日 昭和四〇年六月三〇日、その他の記載事項(一)の手形と同じ、

二、原告は右(一)の為替手形を支払期日に支払場所に呈示したが支払を拒絶された。(二)ないし(四)の為替手形は被告に対する本件訴状が送達されたのちに満期が到来した。

三、右為替手形四通は、被告が、「株式会社ベスト家具センター」取締役社長の名義において引受けているものであるが、右会社は登記上実在しない法人であるから、被告が個人として引受人の責任を負担すべきものである。

四、よって被告に対し前記為替手形金合計金六二六、一四〇円とこれに対する各満期の翌日から支払済みにいたるまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。

と述べ、

被告訴訟代理人は「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする」旨の判決を求め、答弁として

一、「株式会社ベスト家具センター」が登記簿上実在しないことは認めるが、被告が原告主張のように同会社取締役社長なる名義をもって、本件為替手形四通の引受をしたことは否認する。被告は、本件為替手形上に押捺されている「株式会社ベスト家具センター」「取締役社長岡村質」なる記名印を何人が作成し、また本件為替手形上に押捺したか全く知らない。

もっとも被告が、かつて勤務していた訴外ベスト商事株式会社が川口市本町二丁目七九番地に「ベスト家具センター」なる店舗を設け、被告が同店において販売の実務を担当していたことはあるが、同店の経営は訴外会社の代表取締役香川智恵子および同人の女婿である香川憲太郎がすべて行なっていたもので「株式会社ベスト家具センター」なる名称も、訴外ベスト商事株式会社の取引上の別称であったに過ぎない。本件為替手形については、昭和四〇年六月頃、同会社が倒産したのち、香川智恵子らが何らかの理由により、被告に無断で作成した印章を使用して引受記載をしたことが考えられるが、被告の関知するところでなく、また実質的な取引主体が訴外ベスト商事株式会社であったことからいっても、被告が個人として本件為替手形上の責任を負う理由はない。

二、その余の請求原因事実は知らない。

と述べた。

証拠として<省略>

理由

一、原告の提出にかかる甲第一号証ないし甲第四号証によると、原告がその主張するような手形要件の記載がある為替手形四通(以下本件為替手形と総称する)を所持していることを認めることができ、右記載ならびに成立に争いのない甲第一号証の符箋によると、原告が請求原因第一項(一)の為替手形を支払期日に支払場所に呈示したが支払を拒絶されたこと、同(二)ないし(四)の為替手形は、被告に対し本件訴状が送達された日(昭和四〇年一一月二日であることは記録上明らかである)以降にその記載にかかる満期が到来していることは明らかである。

二、そこで、被告が本件為替手形上の引受人として本件為替手形金の支払義務を負担するかどうかを検討する。

(一)、前掲甲第一号証ないし同第四号証を調べてみると、甲第一号証(請求原因第一項(一)の為替手形)の引受人欄には、「埼玉県川口市本町二丁目七九番地」「株式会社ベスト家具センター」「取締役社長岡村質」なる記名がゴム印をもって押捺され、その名下に「株式会社ベスト家具センター取締役社長之印」なる丸印が押捺され、引受年月日欄には昭和四〇年六月三〇日と記載されており、甲第二号証(請求原因第一項(二)の為替手形)、同第三号証(同(三)の為替手形)および同第四号証(同(四)の為替手形)の各引受欄には、引受年月日がそれぞれ、昭和四〇年七月一日、昭和四〇年七月二日および昭和四〇年七月一日と記載されているほか甲第一号証の為替手形と同様に、株式会社ベスト家具センター取締役社長岡村質なる記名印および取締役社長印が押捺されていることが認められるところ、証人岸良彦、同香川憲太郎の証言によると、右甲第一号証、同第二号証の為替手形は、昭和四〇年六月三〇日頃、川口市本町二丁目七九番地の「株式会社ベスト家具センター」なる名称の店舗内事務室において、訴外香川憲太郎が、為替手形用紙の金額、支払地、支払場所、振出日および受取人各記入欄に原告主張のような手形要件を手記したうえ、右事務室にあてた「埼玉県川口市本町二丁目七九番地」「株式会社ベスト家具センター」および「取締社長岡村質」なるゴム印を支払人欄および引受人欄に押捺し、引受人名下に「株式会社ベスト家具センター取締役社長」なる印章を押捺してもって引受の記載をしたうえ、引受期日欄、振出人欄は白地のまま、原告会社取締役岸良彦に交付し、その後原告会社において引受期日欄および振出人欄の記載を原告主張のように補充したものであるところ、訴外香川憲太郎は右各為替手形を、「株式会社ベスト家具センター」名義によって原告から昭和四〇年五月以降買受けた家具代金の支払にあてるべく、被告の指示にもとづき前記事務室において同所に備付けてあった前記のようなゴム印および取締役社長印を使用して作成したものであり、また甲第三号証、同第四号証の為替手形も、その後被告から右同様に原告に対する家具代金の支払のために、前示のような引受の記載がなされたうえ原告に交付されたものであることが認められる。本件為替手形は、何人かが「取締役社長岡村質」なる印章を作成したうえ、全く被告が関知しない間に作成し、前記のような引受の記載をした旨の被告本人尋問の結果(第四回および第一〇回弁論における)は、前掲証人岸良彦、同香川憲太郎の証言にてらし措信し難く、被告において援用する証人古田博子、同佐上一紀の証言も前記認定と必ずしも抵触するものではない。

叙上認定にかかる事実によると、前示甲第一号証ないし同第四号証の各為替手形の引受記載は被告の意思にもとづいて作成され真正に成立したものと認めるのが相当であり、前掲証人香川憲太郎の証言によってその余の記載部分も真正に成立したものと認め得ることにより、本件為替手形は全体として真正に成立したものと解すべきところ本件為替手形人の引受人である「株式会社ベスト家具センター」が法人として登記簿上実在しないことは当事者間に争いがないのであるから、本件為替手形上に右会社の代表者たる資格の表示と解し得る取締役社長名義で引受の記載をした被告が、手形法第八条の類推適用により個人として本件為替手形の引受人たる義務を負担すべきことは明らかである。

(二)、被告は、「株式会社ベスト家具センター」なるものは、訴外ベスト商事株式会社の別称であり、原告から家具を買入れた取引主体も同会社であるから、本件為替手形上の責任も同会社において負担すべきものであって、被告が個人として責任を負う筋合ではないと主張し、<省略>によると、訴外ベスト商事株式会社は家具販売事業もその営業内容に含み、東京都文京区久堅町七六番地において「ベスト家具センター」なる名称で家具の販売を行っていたものであるが、昭和四〇年三月頃から家具販売部門を独立採算制にしたうえ、同年五月一日頃、川口市本町二丁目七九番地所在鉄筋陸屋根、三階建建物一棟のうち一階一三〇坪を借受けて家具販売のための店舗を設けた機会に家具販売事業を独立させて、同事業を営業目的とする新会社を設立すべく、その商号を「株式会社ベスト家具センター」と定め、設立登記の準備をすすめるとともに、設立登記手続が経由されるのをまたず、同年五月中旬頃から前掲川口市の店舗において「株式会社ベスト家具センター」の名称で営業を開始し、原告等からも同会社の名称で家具を買入れるにいたっていた。右の「株式会社ベスト家具センター」は、当初訴外ベスト商事株式会社の代表取締役香川智恵子を代表取締役として設立される予定で、前記川口市の店舗の借入および開業も同人の指揮によって行なわれていたものであるが、同会社は同年六月一日倒産するにいたり、同人も前掲店舗に姿を見せなくなってしまったため、爾後は、以前、前掲訴外ベスト商事株式会社の家具部長であって、前示のように川口市に店舗を開設して以来、同店の店長名義で家具の仕入ならびに販売に従事していた被告が中心になって前掲店舗における営業を継続し、同年一〇月頃、被告において設立した岡村家具株式会社が同店舗における家具販売の営業を開始するまでの間、同店舗において「株式会社ベスト家具センター」名義の営業が継続されていた。この間訴外ベスト商事株式会社については昭和四〇年九月二四日破産宣告がなされたが、右破産手続において前示川口市の店舗内の資産は同会社の破産財団を構成するものとしての取扱いを受けず、「株式会社ベスト家具センター」名義の取引による債権者が、同会社宛の債権を訴外ベスト商事株式会社に対する破産債権として届出た例もなかった。おおよそ以上の事実が認定されるのであり、前掲証拠中この認定に反する部分は採用できず、前掲乙第一号証、同第二号証の記載もこの認定に抵触するものではない。

右認定にかかる事実によると、「株式会社ベスト家具センター」なる名称は、訴外ベスト商事株式会社から独立し、前示川口市の店舗において営なまれていた家具販売事業の取引上の名称であると解する余地があり、訴外会社の単なる別称に過ぎないものとは解し難いから本件為替手形上の引受人としての支払義務が訴外ベスト商事株式会社によって、負担されるべき旨の被告の主張は採用し難い。

三、してみると、被告は本件為替手形金と各満期の翌日から支払済みにいたるまで商法所定年六分の割合による遅延損害金の支払義務があるというべきものであるから原告の請求を正当として認容すべく、<以下省略>。

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